謙譲語をそのまま尊敬語として用いる誤用
謙譲語「お〜する/ご〜する」を、ついうっかり、もしくは勘違いして、そのまま目上の人の動作・行為に用いてしまう。誤用例と、それを訂正した例を挙げてみよう。
「知らせてもらって助かった」と言いたい。
誤用例:全然知らなかったので、お知らせしていただいて本当に助かりました。
訂正例:全然知らなかったので、お知らせいただいて本当に助かりました。
「会ったのか」と聞きたい。
誤用例:Aさんにお会いしたんですか。どんな人でした?
訂正例:Aさんにお会いになったんですか。どんな人でした?
「説明してくれた」と言いたい。
誤用例:先生が詳しくご説明してくださいました。
訂正例:先生が詳しくご説明くださいました。
「紹介してもらった」と言いたい。
誤用例:Aさんにこちらのお店をご紹介していただきました。
訂正例:Aさんにこちらのお店をご紹介いただきました。
念のために、謙譲語「お知らせする」「お会いする」「ご説明する」「ご紹介する」の本来の使い方の例も示しておこう。
「お知らせする」部品が届き次第お知らせします。恐れ入りますが、2、3日お待ちいただけますか。
「お会いする」Aさんに初めてお会いしたのは、もう30年も前のことです。
「ご説明する」では、私がご説明します。お手元の資料をごらんください。
「ご紹介する」先日ご紹介したお店に早速いらしゃったそうですね。いかがでしたか。
「いただく」「拝見する」など、「お〜する/ご〜する」の形をとらない謙譲語にも、同様の誤用が見られる。
「食べてください」と言いたい。
誤用例:どうぞいただいてください。
訂正例:どうぞ召し上がってください。
「あの映画を見たか」と聞きたい。
誤用例:あの映画を拝見しましたか。
訂正例:あの映画をごらんになりましたか。
本来謙譲語として使用しない動詞を謙譲語のような形にして尊敬語として用いる誤用
「使う」「集まる」などには謙譲語がない。「誰かに知らせる」「誰かに会う」という「知らせる」や「会う」と異なり、働きかける相手が存在しないからだ。したがって、「お〜する」という形で使用することがない。「私がお使いしました」「私たちはお集まりしました」とは言わない。「私が使いました」「私たちは集まりました」でよい。へりくだって述べたいときには、漢語+丁重語「いたす」を用いて、「使用いたしました」「集合いたしました」などと言うことはある。
謙譲語として存在しない「お使いする」「お集まりする」を、尊敬語として用いてしまうのは言うまでもなく誤用だ。
「クーポンを使うか」と聞きたい。
誤用例:お客様、クーポンをお使いしますか。
訂正例:お客様、クーポンをお使いになりますか。
「みんなが集まるまで待とう」と言いたい。
誤用例:皆さんがお集まりするまで、少し待ちましょう。
訂正例:皆さんがお集まりになるまで、少し待ちましょう。
謙譲語をちょっと加工して尊敬語として用いる誤用
「お〜する/ご〜する」の「する」を「される」にすれば尊敬語になると思っている人がいるが、これは尊敬語もどきで、誤用だ。「される」は確かに「する」の尊敬語(の一つの形)ではあるが、語頭に「お/ご」があると、残念なことに、謙譲語に細工した尊敬語もどきにしかならない。
「先生が話す」と言いたい。
誤用例:先生がお話しされます。
訂正例:先生が話されます。/お話しになります。
「先生が説明する」と言いたい。
誤用例:先生がご説明されます。
訂正例:先生が説明されます。/説明なさいます。/ご説明になります。
「先生が話す」の尊敬語は上の訂正例のとおりだが、「先生が話をする」と言いたいときには、「先生がお話をなさいます/お話をされます」となる。「お話」の「お」はなくてもよい。
「いただく」「拝見する」に少し手を加えた尊敬語もどきもある。
「食べてください」と言いたい。
誤用例:どうぞいただかれてください。
訂正例:どうぞ召し上がってください。
「あの映画を見たか」と聞きたい。
誤用例:あの映画を拝見されましたか。
訂正例:あの映画をごらんになりましたか。
まとめ
「お知らせする」「ご説明する」「いただく」「拝見する」などをはじめとする謙譲語(厳密に言うと、「お知らせする」「ご説明する」「拝見する」は働きかける相手のいる謙譲語I、「食べる」の意味の「いただく」は自分だけで動作の完結する謙譲語II別名丁重語)は、自分を低めることで相手、もしくは聞き手を高める言い方であり、したがって尊敬語として用いることはできない。
「お〜する/ご〜する」の「する」を尊敬語の「される」にしてもホンモノの尊敬語にはならない。「いただく」に尊敬の助動詞「れる」をつけて「いただかれる」にしたところで、尊敬語にはならない。
「集まる」の尊敬語「お集まりになる」がすぐに出てこないということもあるだろう。そんなときは、「皆さんが集まるまで、少し待ちましょう」と言っておけばいい。「集まる」のまま、つまり敬語なしでかまわない。そうすれば、「お集まりする」などという「敬誤」を使わずにすむ。