「確認してね。お願いよ」を敬語にすると?
「確認してね」は「確認してください」「ご確認ください」、「お願いよ」は「お願いします」「お願いいたします」「お願い申し上げます」となる。では、二つを一つの文にするとどうなるか。これは実に単純で、前半部分と後半部分の間に「ますよう」を挿入するだけだ。
確認してくださいますようお願いします。
確認してくださいますようお願いいたします。
確認してくださいますようお願い申し上げます。
ご確認くださいますようお願いします。
ご確認くださいますようお願いいたします。
ご確認くださいますようお願い申し上げます。
「確認して…」より「ご確認…」、「お願いします」より「お願いいたします」、「お願いいたします」より「お願い申し上げます」のほうが敬意の度合いが高い。もっとも上の六つにそれほど大きな違いはない。「確認してね。お願いよ」と「ご確認くださいますようお願い申し上げます」はだいぶ異なるが。
聞き手、読み手に伝えたいメッセージは同じでも、誰が誰にどんな状況で言うかによってさまざまな表現があり、それにともなって敬意の度合いも変わってくる。
私がよく使うのは「ご確認くださいますようお願いいたします」だ。前半と後半のバランスがよいことと十分に丁重であることから、この言い方を好んで使用している。単に好みの問題と言ってよい。
「二列に並んでね。お願いよ」を敬語にすると?
「確認する」は漢語の名詞+「する」(サ変動詞と呼ばれるもの)だが、では、和語の動詞の場合はどうだろう。「確認する」の代わりに「二列に並ぶ」にしてみよう。「並んでね」の尊敬語は「並んでください」「お並びください」。あとは「確認してね。お願いよ」のときと全く同じだ。一文にしたものを列記する。
二列に並んでくださいますようお願いします。
二列に並んでくださいますようお願いいたします。
二列に並んでくださいますようお願い申し上げます。
二列にお並びくださいますようお願いします。
二列にお並びくださいますようお願いいたします。
二列にお並びくださいますようお願い申し上げます。
「くださいますよう」の代わりに「いただけますよう」「いただきますよう」が使えるか
目上の相手に確認してくれるよう頼む表現はすでに紹介したとおりだが、よく目にし、耳にする言い方はほかにもある。下の「?」と「×」をつけたものだ。
○ご確認くださいますようお願いいたします。
?ご確認いただけますようお願いいたします。
×ご確認いただきますようお願いいたします。
三つ目の「いただきますよう」は誤用だ。
私は長い間、二つ目の「いただけますよう」を使っていた。「くださいますよう」より謙虚な感じがして(「いただく」が謙譲語だからという安易な理由で)、もっぱらこれを用いていた。しかし、数年前に疑問を感じて、使用をやめた。きちんとした尊敬語の「くださいますよう」があるのに、なぜわざわざ謙譲語「いただく」(の可能の形)を使うのか、と自問した。敬語を使う際の私のモットーは「正しく、そしてシンプルに」だったのに、ずいぶんひねった言い方をしている、と反省したのだ。
そして、なぜ「いただけますよう」を使っていたのか考えてみた。詳しくは次に述べるが、自分なりに出した結論を先に書いておく。「いただけますよう」は大間違いとは言えないまでも、本家本元正統の「くださいますよう」を押しのけてまで使わなければならない理由は一切ない、というものだ。
相手に依頼する、もしくはやんわりと命令する際に「いただけますよう」を使っていた自分を正当化するわけではないが、「くれる・くださる」と「もらえる・いただける」が依頼の場面で同じように使えることが多いのは事実だ。「もらう・いただく」は使えない。意味が全く異なってくる。
相手にものを頼むときの表現
「確認してください。お願いします」と同じ意味になるのはどれ?
○確認してくださいますか。
○確認していただけますか。
×確認していただきますか。
上の二つは、当然ながら、相手が確認する。それを私は相手に頼んでいる。三つ目は、誰が確認するのか。相手でないのは明らかだ。私とあなた以外の誰かに確認してもらう? 相手にそのことを相談している? 次のような場面なら、「確認していただきますか」が使える。
A:私たちだけが見てハンコを押すのもちょっとアレだから、部長に確認していただきますか。
B:そうですね。部長に確認していただくのがいいですね。
確認するのは聞き手Bではなく、話の中に出てくる、つまりこの場にいない部長だ。
親しい人に頼む場合も同様だ。一つ目と二つ目は○だが、三つ目は×。誰が確認するのか考えれば、三つ目がおかしいことにすぐに気づく。
○確認してくれる?
○確認してもらえる?
×確認してもらう?
ほかにも複数の言い方がある。相手や状況によって表現が多少変われど、正しいのが上の二つであることに変わりはない。
○確認してくれますか。
○確認してもらえますか。
×確認してもらいますか。
○確認してくれない?
○確認してもらえない?
×確認してもらわない?
○確認してくれませんか。
○確認してもらえませんか。
×確認してもらいませんか。
○確認してくださいませんか。
○確認していただけませんか
×確認していただきませんか。
「くださいますか」と「いただけますか」が同じように使えるのなら、「〜くださいますようお願いいたします」と言うべきところで「〜いただけますようお願いいたします」と言ってもかまわないだろうと、かつての私は思い込んだ。もちろんこの言い方をしていたのは私だけではないし、今もしている人は少なくないから、「私たちはそう思った」と言ったほうがよいだろう。
いずれにせよ、同じ場面で「いただきますか」が使えないことははっきりしている。「〜いただけますようお願いいたします」は大丈夫だろうと思った私たちも、「〜いただきますようお願いいたします」が使えるかもしれないなどとはこれっぽっちも考えなかった。脳裏をよぎりもしなかった。もちろん使う人もいなかった。それが今や…
「私は先輩に( )よう頼んだ」
次の二つは、学生が教員に直接頼むときの表現だ。
論文を見てくださいますか。お願いいたします。
論文を見てくださいますようお願いいたします。
これを「私は先生に論文を見て( )ようお願いしました」という文にする場合、( )に入るのは「くださる」「いただける」「いただく」のうち、どれだろうか。
○私は先生に論文を見てくださるようお願いしました。
×私は先生に論文を見ていただけるようお願いしました。
×私は先生に論文を見ていただくようお願いしました。
ついに、「いただける」にも×がついた。というか、私がつけた。「いただく」はもちろんダメだ。×しかつけてもらえない「いただく」がちょっと気の毒になってきた。でも、この場面であなたの出る幕はないのだ。
「くれる」「もらえる」「もらう」でも同じことが言える。
○私は先輩にレポートをチェックしてくれるよう頼んだ。
×私は先輩にレポートをチェックしてもらえるよう頼んだ。
×私は先輩にレポートをチェックしてもらうよう頼んだ。
「いただく愛♡」が強い人は、実は自己チューだったりして…
「先生が論文を見てくださる」「先輩がレポートをチェックしてくれる」の主語は先生、先輩だ。それに対して、「いただく・もらう」の主語は私。「私が先生に論文を見ていただく」「私が先輩にレポートをチェックしてもらう」。「もらう・いただく」を好んで使う人は、案外、自己中心的思考の持ち主なのかもしれない。自己顕示欲が強いのかもしれない。しょっちゅう「私がー」「私がー」と言っていることになる。
半分冗談だが、半分真剣に、この逆説(このような場面で謙遜して、少なくとも本人はそのつもりで「いただく」を使う人は、実は自己チュー?!)についてこれからも考えていこうと思っている。
今日の結び。「〜いただきますようお願いいたします」は誤用だ。正しくシンプルな「〜くださいますようお願いいたします」を使えば何の問題もない。