「長々とありがとうございました」の「長々と」は適切か

謙譲語? 尊敬語?

インターネット上でこんな質問を見つけた。

『長々と』という表現は、「長々とお付き合い頂きありがとうございました」など謙譲語としては適切でも、「長々とご説明頂きありがとうございました」など尊敬語としては不適切ですよね?『長々と』ではなく『長らく』であれば適切な表現になりますか?

『 』の使い方など表記上の問題点は置いておく。これらの文中で「長々と」が使えるかどうか考える前に、質問者が謙譲語と尊敬語を誤解しているようなので、一言記しておきたい。

質問者は、「お付き合いいただく」は謙譲語で「ご説明いただく」は尊敬語だと言っているが、どちらも「もらう」の謙譲語「いただく」が使われている謙譲表現だ。「私はあなたに付き合ってもらった」「私はあなたに説明してもらった」、付き合ったのも説明したのも相手であり、その相手に対して、「私はあなたから恩恵を受けた。サンキュー」と言っているわけだ。

「もらう」を「いただく」にすると、「付き合っていただく/お付き合いいただく」「説明していただく/ご説明いただく」となる。「〜していただく」より「お/ご〜いただく」のほうが、敬意の度合いがやや高い。

質問者が尊敬語だと勘違いした「ご説明いただく」を本物の尊敬語にするには、「くださる」を使って、「説明してくださる」または「ご説明くださる」と言えばいい。「説明してくれる」の尊敬語だ。もう一方も、「付き合ってくださる/お付き合いくださる」とすれば尊敬語だ。「あなたが私に付き合ってくれた」「あなたが私に説明してくれた」「あなたが私に恩恵を与えた。サンキュー」ということだ。

「長々と」はどんなときに使うか

さて、「長々と」の使い方に移ろう。「長々と」は謙遜して自分のことに使うならよいが、相手の行為に感謝を述べる際にはふさわしくないのではないか、という質問であれば、答えは「はい、そのとおりです」で終わってしまう。しかし質問者はそのようには書いていない。勘違いの部分をそのままに、質問文を書き換えてみる。ただし、謙譲語、尊敬語という名称は用いない。

「長々と」についてお尋ねします。「長々とお付き合いいただきありがとうございました」は適切で、「長々とご説明いただきありがとうございました」は不適切だと思うのですが、どうでしょうか。「長々と」ではなく「長らくご説明いただき…」であれば適切な表現になりますか。

私がこの質問を受けたら、以下のように答える。

「長々とお付き合いいただき…」「長々とご説明いただき…」のどちらも、「長々と」は適切ではありません。「長々と」は「長々とお邪魔しました」「とりとめもないことを長々と喋ってすみません」のように使います。お邪魔したのも喋ったのも自分です。自分の行為で相手に時間をとらせてしまって申し訳ない、といった気持ちで使います。私に付き合ってくれた、私に説明してくれたという相手の行いに感謝を述べるときには使いません。「長時間お付き合いいただき…」「詳しく(または、丁寧に)ご説明いただき…」と言えばいいと思います。また、「長らく」は「長い時間、長い期間」を意味するので、「長らくお付き合いいただき…」とは言えますが、「長らくご説明いただき…」とは言えません。

以上、長々と書く傾向のある私としては精一杯短くまとめたつもりだが、おそらくこれでも長すぎるだろう。手っ取り早く質問して手っ取り早く回答するというインターネット上の匿名のやり取りに、私は向いていないようだ。さほど長くないコメントの最後に「長文失礼しました」などと書いてあるのをよく見かける。長い文が嫌われていることがわかる。要点を簡潔に書くことは大事だが、言葉を費やして懇切に説明しなければならないこともある。

ちなみに、私がこのような感謝の言葉を述べるとしたら、「いただく」ではなく「くださる」を使って、「長時間お付き合いくださり、ありがとうございました」「詳しくご説明くださり、ありがとうございました」のように言う。なぜなら、相手が友達だったら、私は「付き合ってもらってありがとう」ではなく「付き合ってくれてありがとう」、「説明してもらってありがとう」ではなく「説明してくれてありがとう」と言うからだ。「〜してもらってありがとう」も間違いではないと思うが(西日本的言い方?)、私には「〜してくれてありがとう」のほうが何倍もしっくりくる。

目上の人の行為に「長々」を使うと…非難、陰口になる

「長々と」を使った別の例を挙げよう。

課長が長々と説明してたけど、何を言いたいのかさっぱりわからなかった。本人も自覚してるみたいで、「何が言いたいかと言うと」とか「要は」とかいう言葉をよく挟むんだけど、それからまた、だらだらと続くんだよね。

まだ乾杯の挨拶終わらないの? どうでもいいことを長々とくっちゃべってないで、早く飲ませてよ!

目上の人の行為に「長々と」を使うのはこのような場合だ。普通、本人に聞こえないように言う。形容詞の「長ったらしい」がそうであるように、副詞の「長々」もその人に面と向かって言うものではない。もっとも、それまでの良好な関係がその時点で終了することを覚悟した上で「長々と」を使うのは個人の自由だ。

作成者: マチルダ

マチルダこと野口恵子です。昭和27年(1952年)11月に愛知県瀬戸市で生まれ、東京で育ちました。現在は埼玉県在住。日本語とフランス語を教えています。著書に、『かなり気がかりな日本語』(集英社新書)、『バカ丁寧化する日本語』『失礼な敬語』『「ほぼほぼ」「いまいま」?! クイズおかしな日本語』(以上光文社新書)などがあります。このブログでは主として日本語の敬語について書いていますが、それ以外の話題に及ぶこともあります。どうぞよろしくお願いいたします。

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